COLUMN
わがカーマニア人生に一点の悔いなし。フェラーリを13台買い、カウンタックも2台買い、その他全部合わせて51台のクルマを買った。私の趣味はクルマを買うことです! 本当に楽しいカーライフでした。もういつ死んでもいいです。さようなら。
でも、もしも私が18歳の青年に若返って、もう一度カーマニア人生をやりなおせるとしたら、若いうちにできるだけボロいクルマに乗っておきたい、としみじみ思う。もしもこれを読んでいる若い方がいたら、「クルマはボロに限るヨ!」と伝えたい。
なぜボロいクルマがいいのか。
ボロければボロいほど、濃い体験ができるからだ。もちろん、濃い体験がしたければの話ですが……。
もうひとつ条件を挙げるとすれば、できればMT車がいい。ボロいMT車ならなんでもいい! それだけで人生が楽しくなる! クルマが好きになる! はずなのだ、たぶん……。
親は子に夢を託すという。私も以前、それを実行した。息子が17歳になった時、中古のアルファ147(5MT)を68万円で買った。まだ免許も持ってないのに! まさに親バカ。
その147は2001年式。買った当時はまだ8年落ちで決してボロではなく、手ごろなMTの輸入中古車というところだったけど、これこそクルマ好きになるための最高の素材ではないか! と考えたのだ。
確かに素材としては優れていた。147は間もなくオイル漏れが始まったが、アルファロメオのオイル漏れなんか、治そうとしちゃいけない。治そうと思ったらたぶんいっぱいお金がかかる。オイルなんか漏れた分足せばいい。半年で1リットル漏れるなら、半年に1度1リットル足せばOK!
皆さんは、「オイル漏れなんて怖い!」「燃えないの?」と思われるかもしれませんが、オイルはガソリンと違って簡単には燃えません。天ぷら油もゴマ油も、鍋に入れて火にかけたって燃えないっしょ?
しかし、ダメだった。
大阪の大学に行った息子は、19で免許を取った。私はわざわざあっちに駐車場を借り、ご丁寧に147を届けたが、結局さっぱりクルマ好きにはならず、ただボディを270度傷だらけにしただけで、卒業とともに147で戻って来た。親の趣味を息子に押し付けようした私が間違っておりました。
この147、どうしよう……。
私は、週刊SPA!の担当Kに「タダであげるよ」と言ってみた。
当時のKは、「イタ車なんて故障が怖い!」とドイツ車一辺倒だったが、こういうボロいイタ車に乗れば、もっとクルマを楽しめる体になるんじゃないか。怖いものがなくなるんじゃないか?
今度は狙いが的中した。Kはボロい147に夢中になり、猛烈に乗りまくった。そのうち天井の布は垂れ下がり、内装プラスティックの表面はどんどん溶け、塗装のクリアがはがれてみすぼらしくなり、ダンパーは完全に抜けてフニャフニャ。ギアも入りづらくなって真のポンコツになったが、その延命に夢中になった。あげたとき8万キロだったのを15万キロまで乗り、最後は力尽きて廃車にしたが、「いつ故障するかわからないクルマに乗ることで、人間的に成長して、奥さんのわがままにも優しくなれました」と自ら語るまでになった。
彼は今、再び激安147を探し出して購入し(総額28万円)、立ち往生を繰り返すという濃い人生を送っている。
クルマは新車の時が一番元気でトラブルはない。つまりドラマもない。しかしボロくなればなるほどドラマが起こる。クルマは死に際が一番輝くのである。だから死に際を狙え!
中古車サイトを検索してみよう。おおっ、1万円のスバルR2(5MT)がある! R2は悲運の名車。その5MTなら絶対楽しめる! でも支払総額は34万円。なぜ? こりゃダメか。じゃ03年式で9万円(支払い総額24万円)の2代目デミオだ! コイツもクルマの素質は高いぞ。輸入車で安いMTというと、今はプジョーにトドメを刺す。206や307が10万円(支払い総額30万円前後)から買える。
いいクルマを買おうとしちゃいけない。目をつぶって死期が近そうなボロを買え! そのほうが人生ドラマチック! え、お前は実行してるのかって? えーと、「できるだけ壊れそうなのをください」と言っても、なぜか私の手元にあるうちは、あんまり壊れないんです……。ボロは死ぬまで付き合わなきゃダメだね!